※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「岬、電車で泣くなよ」 若林くんがからかうように言う。駅の時計は柱の陰で見えないけど、腕時計によると、電車が来るまであと少し。
久しぶりに若林くんに会った。急にドイツに押しかけた僕に、若林くんは怒るどころか、すごく嬉しそうに笑ってくれた。 「お前に会えるなんて思ってもみなかった」 背も伸びて、随分体格も良くなっている。同い年とは思えない風貌からは想像しにくい、優しい声の響きは、仲間に向けられるもの。それでひとまずは安心した。 「こちらこそ、若林くんがこっちに来てるなんて、びっくりしたよ」 日本に帰りたい気持ちは、日に日に強くなる。自分で決めたはずなのに、その決断を後悔する。そんな時に見た記事に、僕は飛びついた。 「それで会いに来てくれたのか」 「うん」 「そうか。嬉しいぜ」
・・・誰でも良かった。僕の孤独を癒してくれるなら。僕の寂しさを埋めてくれるなら。 そんな風に思っていた僕に、若林くんの笑顔は眩しかった。
久しぶりで、話は弾んだ。南葛のみんなの様子は聞いているだけで、想像できるみたいだった。でも、楽しい話はそう続かなかった。僕がフランスに来た訳を話すには、日本でのことは避けられない。できるだけさらっと話したつもりだった。 「岬」 僕の話を遮って、若林くんは僕の顔を覗き込んだ。見詰める黒い目は落ち着いていて、吸い込まれそうに深い。 「・・・無理して笑うなよ」 無理しているつもりはなかった。あまり愉快な話ではない。だから、できるだけ明るく話しただけ、のことだった。 「・・・目が離せなくなるだろ」 ほんの少し、低くなった声が大人っぽいと思った。少し視線が伏せられたから、余計に目が合わせられなくなった。
昔から、気になる存在ではあった。でも今は、定義が変わった。
楽しい時間は呆気なく過ぎて、別れの時間はすぐにきた。もう少しだけ、話したいと思って顔を上げたら、若林くんが見ていた。寂しそうな顔をした覚えはなかったけれど、若林くんには分かってしまうのかも知れない。
「じゃあ、泣こうかな」 冗談っぽく返せた。すごく明るく言えた。
今日言われた言葉は意外だった。そんなこと今まで言われたことなんてなかった。そう考えたら、胸に込み上げるものがあった。 子供のように泣けるなら。最後に泣いたのは、日本を去る決心をした日。しゃくり上げて言葉にはならなかったけれど、声を出して泣いた訳ではなかった。そう言えば、最後に声を上げて泣いたのは、いつだったっけ。 「泣けよ。誰にも言わないから」 気がつくと、若林くんの腕の中にいた。若林くんは僕の頭を胸に押し付けるようにして、泣かせる気満々だった。 子供のように泣くと言っても、そんなことをした覚えすらなかった。それに気付いた途端、多分僕は複雑な顔をしたんだと思う。若林くんの胸の暖かさも、頭に載せられた手の大きさも、胸に刺さった。
「・・恥ずかしいところを見せちゃって・・ごめんね」 「ああ」 まだ熱い目を擦る。でも不思議と胸の中が清々しいのは、胸のつかえを流してしまったからだろう。その様子を黙って見ている若林くんに気付くと、また恥ずかしくなった。 「・・・誰にも言わないでね」 手を合わせてお願いする僕に、若林くんは悪戯っぽい笑顔で返した。 「それは二人の秘密ってことで良いな」 楽しそうに細められた目も、笑みを刻む唇も、何故か嬉しそうに見えて、泣いてしまった自分が恥ずかしくなった。 「そんなんじゃないよ?」 突き放すように言って、顔ごと反らす。熱の引きかけた顔が、また熱くなりそうで。 「泣いてるところが可愛かったから秘密にしてやるよ」 楽しそうに笑われるのは悔しいのに、どこかくすぐったいような気持ちに、落ち着かなくなる。荷物を持ち直すふりをして下を向いた僕の頭に、若林くんがまた手を置いた。 「もう、俺の前では無理して笑わなくて良いから」 お言葉に甘えて、顔も上げずに頷いた。多分また涙が滲んで来ているから。 そして、思う。会いに来て良かった、と。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 しばらく仕事が忙しくて、やっと休みです。 先日、銀月星夢様とお話しした時に、自分でも気付いていない岬くんの孤独や辛さに、若林くんなら気付いて包んであげられるんだろう、という話が出て、萌えました。そういうのを書きたいと思った結果が、これでは非常に情けない。
以下、拍手お礼。 銀月星夢様、先日はありがとうございました。そして、コメントもありがとうございました。 こちらこそ、たくさんお話しできて、嬉しかったです。 お菓子は、京都伊勢丹の売れ筋で、いつも行列ができているのですが、あの日はたまたま行列がなく、スムーズに買えました♪その辺りで運を使い果たしたのかも知れません。 源岬本品評会も萌え語りもエロ語り(笑)もしたかったのですが、なかなか・・・。 次回は是非。
snow様、こんばんは。コメントありがとうございます。 お忙しい中、お越しくださり、ありがとうございます。 ここのところ、サイト傾向が迷子になっておりますので、そういっていただけると嬉しいです。 想われている若林くんは幸せ者ですよね~。いや、二人で幸せになってくれていいんです。むしろ、なって。 snow様もオンリーに行かれなかったんですね。私も行けなくて本当に残念でした。 源岬語り、是非しましょう。リアルではなかなか語れないことですので、すぐに限界突破してしまいそうなのですが。 ぜひぜひ。
拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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