※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「悪いが、頼まれてくれるか?」 そう切り出された若林くんからの電話に、僕は首を傾げる。いわく、日本のチョコレートが欲しいらしい。 「そっちの方が有名なの多いと思うけど・・・ベルギーチョコの店もあったじゃない」 ベルギーは誰知らぬ人のない程有名なチョコレート店の発祥地である。他にも有名な店が幾つもあり、ドイツにはその支店もある。 「すまん、言葉が足りなかったな。日本のチョコバリエーションがテレビで紹介されたんだ。それ見てた連中が食べてみたいって言い出して」 日本のチョコレート菓子でバリエーション豊富な商品名を聞かされ、僕はようやく合点がいった。確かに、外国人旅行者に人気があると聞くし、日本でもその地方に行かないと買えない限定ものは国内でもお土産として貰うことも多い。 「じゃあ、今度行く時に持って行けば良いの?」 「ああ。頼んだぜ」 嬉しそうに聞こえる電話の声に、仕方ないな、と気持ちは動いた。
フランスから日本に戻って、すぐに手紙が届いた。久しぶりの友達からの手紙も嬉しかったけれど、忘れないと言ってくれた若林くんの気持ちが胸に沁みるようだった。以前にいた町に戻って来るというのは初めてで、いつもにない不安を感じていたらしい。その揺れていた心も、少し静まった。 だから、遊びに来て欲しいというメッセージも素直に受け取った。どうしても応援に来て欲しいというのは、額面通りには取れなかったけれど。
南葛のみんなは、戻って来た僕をもちろん歓迎してくれた。翼くんは言うまでもなく、他のみんなも会いたかったと言ってくれた。Jr.ユース大会で再会したメンバーも、そうでない友達も笑顔で迎えてくれた。・・・おかえり、と迎えてもらったから、余計に若林くんの不在を感じたのかも知れない。会いたいと思ったのは、きっとそのせいだ。
「久しぶりだな」 「うん。日本に戻る時に挨拶に来て以来だよね。・・・手紙ありがとう」 差し出された手は温かくて、ドイツに着いた途端に感じた寒さも薄れるようだった。 「よく来てくれたな」 「ううん、こちらこそ招待ありがとう」 試合のチケットに加えて飛行機のチケットまで送られたら、そう言わざるを得ない。頭を下げた僕に若林くんは微かな笑みを浮かべてみせた。 「俺が会いたかったんだから、当然だろ」 そのまま僕の手を引いて歩きだす若林くんの背を追い、帽子の陰で見えない表情を推し量る。
若林くんは時々、こういうことを言い出す。本当にさりげなく言うから、僕も反応に困る。そして、その後は至って普通だから、なおさら困る。 もし本当なら、と思う一方でからかわれているだけなら、真面目に取るだけ無駄なことだ。だから、僕も特に何も言わないでいる。
若林くんの家で、持って来たチョコレートを広げた。 「すごいな、これ」 わざわざ探してきた抹茶味のものを筆頭に、テーブルには色とりどりのチョコレートが並ぶ。 「頑張って探して来たんだよ。ちょうどバレンタインで大変だったし・・・」 チョコレート売り場はすごかった。普段なら扱っている店まで行けば普通に買えるはずのお菓子でさえ、買うのは一苦労だった。女性ばかりの売り場をかき分けるように、探すのさえ。 「じゃあ、俺からはこれ」 若林くんは、隣の部屋から花束を持ってきた。豪華な真紅のバラに、フランスで見かけた風景を思い出した。女性がチョコレートを贈って愛を告白したり、日頃の義理を果たす日本のバレンタインデーとは違い、フランスでは男性が恋人や想う相手に花束やプレゼントを贈る日。パリではこの日になると、いっそうお洒落に装い、花束を抱えたパリジャンが街にあふれる。そして、彼らの手は素敵なパリジェンヌに差し出される。 同じように花束を差し出されて、僕は若林くんを見た。冗談みたいなチョコレートの返礼にしては、受け取るのが精一杯の花束に、詰め込み過ぎだと思う。僕のチョコレートもかなり多かったけど、このバラも相当だ。その重さが想いの強さのように感じて、胸の音が大きくなる。凛々しい顔を見ていられなくなって、バラに視線を落とした。 「好きだ」 ゆっくりと告げられることばを、目を伏せたまま聞いた。もう、からかっているなんて思わない。それにしては、バラの香りが甘すぎて、酔ってしまいそう。 「あっ、そうだ。僕も渡すものがあって」 わざとらしく目を背けて、僕はソファーに掛け戻る。花束を丁寧に置くと、隣に置いていた手荷物鞄から、箱を取り出した。 「これ、ついでに買ったから。・・・あげる」 つい、買ってしまったチョコレートだった。もし、欲しいと言われたら、渡すつもりでいた。・・・14日のチケットだから、心の中で期待していなかったとは言えない。僕が会いたいと思っていたように、若林くんもそう思っていて欲しいと、何度も願った。 「岬、ありがとうな」 不意に若林くんが笑った。寒かった駅の中で、手を握ってもらった時のぬくもりを思い出すような笑顔に、若林くんも緊張していたのだと気付く。 「こちらこそ」 見つめてくる目は優しいけれど熱っぽく、僕は恥ずかしくなる。でも、さっき恥ずかしがって逃げた分、若林くんを不安にさせたのは確かだ。ゆっくりと腕が背にまわされて、抱き寄せられる。近づいた顔に、いっそう恥ずかしさが増すけれど、目は逸らさない。 「夢じゃないかと思った」 嬉しそうな若林くんに、女性ばかりのチョコレート売り場で恥ずかしい思いをして選んだ甲斐が、遠い日本から会いに来た甲斐があった。チョコレートよりもずっと甘い囁きに、僕の方こそ夢見心地になった。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 バレンタインネタが思いつかなかったので、岬くんに日本からチョコレートを届けてもらいました。 中学生の岬くんがチョコレート売り場に現れたら、ドキドキします。
以下、拍手お礼、 桐乃様、こちらこそありがとうございます。 21日に行けないのがますます残念です。源岬本!!!・・・興奮してしまって、すみません。 今の時期は準備で大変そうですが、どうぞお体にお気を付けて、ぜひ頑張って下さい! そんな中、お気遣い応援いただいてありがとうございました。 今後ともよろしくお願いいたします。
コメントお礼。 くるみ様、いつもありがとうございます。 おかげさまで元気にしております。ネタが思い浮かばないだけで。 『春の予感』の感想ありがとうございます。 ふわっとしてぼんやりした印象になってしまったのですが、淡くてほほえましいと評価いただいて光栄です。しかも、すごく素敵な表現をしていただいて!どうしましょう!面映ゆいです。
源岬はある程度パターンが決まっていると思っています。それをそのまま書き分けるには腕がないので、割と飛び道具を使ってしまう傾向があります。バラエティに富んでいると受け止めていただけると嬉しいです。 そして、応援ありがとうございます。ご期待に添えているかはわかりませんが、頑張ります!
拍手のみの方もありがとうございました。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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