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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
キスカム
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。



「相変わらず、知り合い多いよな。日本全国かと思ってたら、全世界かよ」
全日本としてのアメリカでの遠征試合、一通りの日程を消化し、一旦解散をしたところである。オフを消化する形で若林と岬が一日延泊したのは、岬が旧友の試合を観に行きたいと言い出したからだ。
「・・・そうでもないよ。その時だけの友達も多いし。たまたま、彼は連絡くれたけど・・・サッカー以外の友達は多くないよ」
大学のバスケットボールの試合がたまたま宿泊所の近くだから、とSNSで知った岬は律儀に観戦に行くと言い出し、岬と少しでもいたい若林が同行を申し出た。遠征試合の結果が満足のいくものであった、ということも起因している。
「サッカーの友達だけで十分だろ。年賀状書くの大変だって愚痴るくせに」
「別に愚痴ってないよ。手が疲れたって言っただけで」
それでも、友達に年賀状を書き、年賀状をもらえることは、昔は夢のように思えた。手が疲れた、とこぼす岬の口調がどことなく嬉しそうなのを思い出すと、若林は岬の頭に手を伸ばした。
「さ、行こうぜ。良い席なくなっちまう」
「っもう、帽子がぐちゃぐちゃになるじゃない」
ずれた帽子を直して、岬は先を行く若林の後を追う。普段遠く離れているせいで、付き合っているとは言っても、なかなか会えない。こうして二人で出かけるだけでも新鮮なのに、違うスポーツを一緒に見に行くのは初めてで、完全にデートそのものだ。汗ばむ位の好天に負けない位機嫌の良い若林の様子が嬉しくて、岬もまた笑う。いつもなら、どちらかが声をかけられることも多いのに、ここでは誰も知らぬ顔なのも、嬉しい要素だった。

「結構盛り上がってんな」
旧友に声をかけてから、岬は席に戻った。フランスの日本人学校時代の友達は、住み慣れたアメリカに戻って、ますますアメリカンになっていた。そう考えると自分はどうしても日本人だな、と岬は頭の中で対比する。
「うん。すごい応援だね。場内のディスプレイもチア合戦映してるし」
ケーブルテレビで放映されるらしく、業務用らしいカメラが回り、何か所もあるディスプレイに映し出されている。試合では見慣れた光景でも、距離が近い分意識してしまう、と岬が思った時だった。何気なくディスプレイを見ていた若林が岬の肩を叩いた。
「岬、あれ」
場内のディスプレイが観客のカップルを映し出した途端、彼らは笑い出して、抱き合うとキスをした。
「キスカム、って奴らしいぞ」
「何それ」
若林は岬が挨拶に行っている間に見ていたチラシを差し出した。そこには「キスカム」あり、と書かれており、場内のディスプレイに映されたカップルがキスをするゲームだと説明まで添えられていた。
「ええっ!?」
二人きりの時に、キスを交わさないことはない。隔てられた距離を、時間を取り戻すように貪欲な若林はとにかく接触したがる。唇に限らない。指と指。手と手。すぐに触れようとする若林に困りながらも、拒み切れないこと自体が寂しく、そういう岬もつい手を伸ばしてしまっていたりする。
 だが、人前は別だ。必要以上に距離をとる岬に、若林は時に笑ってその茶番に付き合ったり、時に意地になって岬の仮面を剥ごうとしたりする。それくらい、意固地に人前では清廉潔白を装う岬である。こんな場所でのキスなんかとんでもない。思わず表情を険しくした岬の肩を軽く揺すり、若林はコートを指した。
「まあ、これだけいるんだ。そう当たらないって。それより、試合始まるぜ」

 試合は一進一退の攻防が続く。何度も息を飲み、拳を握りしめて、攻防を見守る。バスケットボールのルールは知っているし、鍛えられた目はプレイの一つ一つを読み取ることができる。それでも予測できないことが却って面白いと若林は思った。隣の岬が声を嗄らすように応援しているのも微笑ましい。
 普段一緒にはいられない。お互いが自分のプレイに執着しなければ、妥協案も見いだせるのかも知れないが、お互いにサッカーが一番で、相手はその次。そのスタンスまで一致している。
 それでも、一緒にいる時にはひと時も離れたくはない。そして、色々な岬を享受したい。特に、楽しそうに笑う岬が見たかった。そういう意味でも強引に来て良かった。人目を気にせず楽しみ、無邪気にふるまう岬は珍しい。
 後は。若林は場内ディスプレイを見た。さっきから、タイムにはキスカムがされているようだ。どうせなら、自分に回ってきたら面白いのに、と若林は思った。岬はさぞ恥ずかしかって、抵抗することだろう。

 試合は相手チームのタイムだった。時計を見ようとした若林だったが、ふと顔を上げたところで気が付いた。ディスプレイに映っているのは。
「岬」
肘でつつかれた岬も顔を上げ、そして声を上げた。
「ええっ!?」
ディスプレイに映し出されているのは、若林と岬の二人だった。

 動いたのはもちろん若林だった。岬の肩を抱き寄せると、左手が頬に添えられる。
「岬、じっとしてろよ」
「え、ちょっと待ってよ、人前だよ」
顎を掴む手に抗って、岬は身をよじる。
「これな、キスしないと何回もカメラ向けられるらしいぜ」
「だ、駄目だよ。みんな見てるってば」
「目、つぶれよ。嫌なら、俺だけ見てろ」
「や・・・んんっ」
唇が重なった途端、カメラは興味を失ったように遠ざかった。

「待て・・待てよっ」
解放された途端、走り出した岬を若林が追う。座席の間を縫って走るのは岬の方が得手で、たちまち離される。だが、通路に差し掛かったところで、若林の猛追があった。
「ちょっ・・・」
肩で息をしているまま、通路の壁に押し付けられて、岬は息も絶え絶えに見上げる。覆いかぶさるように降りて来た口付けに、逃れることも許されずに、壁に手を付いた。姿勢を保つことも難しい岬を支えて、若林は更に深く口付けた。

「若林くんのばかっ」
キスから解放された岬の第一声はそれだった。何回も唇を奪われ、息が上がったまま放たれた言葉に、目元に滲む涙の珠。頬はまるで茹で上がったように赤い。
「あまりノリが悪いのも良くないだろ」
確かに、カップルがなかなかキスをしない時にはしばらく映されていた。それに、最初に映し出されたカップルはあまりに楽しそうにキスを交わし、場内が沸いたことも事実だ。現に、二人のキスの時も、場内には歓声が起こった。
「だからって・・・」
恥じらう岬は可愛くて、乗り出すようにキスをしたのは確かだ。だが、いざキスをしたら、その接吻が一瞬で終わることに耐えられなくなった。
「まあ、あんな短いのは物足りないけどな」
壁を背に岬が見上げれば、向かい合う若林の顔が目の前にあった。普段よりも近い唇に、岬は走り逃げた時よりも鼓動の激しい胸を押さえる。
「・・・ばか」
真っ赤な顔のまま、ごく微かな声で呟く岬に、若林はまたキスの衝動が沸き上がるのを感じた。確かに、人前は危険に違いない。少し得れば、もっと欲しくなる。普段の諦念の裏返しのように、満たされることのない底なしの欲望。
「早く二人になりたいな」
「試合が終わったらね」
恥ずかしい目に遭わされた仕返しに、岬は焦らすように微笑みかけた。その悪戯っぽい笑顔も二人の時を想起させて、若林は思わず息を飲んだ。
「・・・帰ったら覚えておけよ」
「君こそ。僕、まだ許してないからね」
足早に座席に戻りながら、岬は友人にどう言い訳しようか考えていた。同じ道すがら、若林が何を考えていたかは言うまでもない。

(終わり)

拍手ありがとうございます。
最近PIXIV徘徊癖がついてしまいました。自分の好きCP傾向を改めて自覚したり。
でも、萌えネタの仕入れには良いです。今回のネタもそこから。

一応補足。キスカムとは、はてなキーワードさんによると、主にアメリカとカナダにおいて、野球やバスケットボールなどのスポーツイベントで、場内のディスプレイに映し出されたカップルがキスをするゲーム。http://d.hatena.ne.jp/keyword/Kiss%20Cam とのことです。

以下、拍手コメントお礼。
桐乃様、コメントありがとうございます。
再会の前に若林くんが岬くんのことを思い出していて欲しいな、そしてどうせなら、と思って書きましたので、喜んでいただけて嬉しいです。
応援届きました!!どうぞこれからもよろしくお願いします。

拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。

もうすぐバレンタインなのにネタがありません。どうしましょう。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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