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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
守ってあげたい
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。


「全日本に参加することにしたよ」
電話で報告する。今、チームはドイツにいると若林くんから聞いていた。そして、若林くんが合流したことも。僕はパリで参加要請を受けたこと、でも迷っていることも打ち明けていた。
「そうか。岬が参加してくれるのは心強いな」
電話の向こうの若林くんは笑顔に違いない。声も弾んでいる。良かった。僕で役に立つかどうか、と迷う僕の背中を押してくれていたのは若林くんだったから。
「フランスJrユースに挑んできた。それで、参加することにしたんだ。役に立つかどうかは分からないけど・・・よろしくね」
僕の言葉に、息を飲む音が電話の向こうから聞こえた。何気なく言ったけど、自分でも大それたことをしたものだと思う。
「さすがだな。ついでに大会が終わったら、ドイツのチームに入る気はないか?」
「それでカルツと組むのはお断りだよ」
冗談めかした言葉だったけど、僕のことを買ってくれているのは伝わってきて、本当に嬉しいと思う。
「お前が参加してくれるのは嬉しいんだけどな、岬」
急に、若林くんの声のトーンが変わった。聞いたことのないような低い声に、今度は僕が声を失う番だった。
「俺には話しかけないでくれ」
今までの楽しい電話が嘘のように、寂しい口調だった。僕が怒らせた訳ではないらしく、若林くんがそのまま僕の様子を窺っているのも感じ取れた。
「何か理由があるんだね?」
恐る恐る聞いた僕に、若林くんはああ、とだけ答えた。それだけ聞けば十分だった。若林くんが思慮深いのはよく知っている。何か考えがあってのことなら、僕に止める筋合いはない。
「分かったよ。電話するのは良い?」
「大歓迎だ。俺からも連絡すると思う。じゃあ、また」
ほっと息をつくのが聞こえた。それまではいつも通りの若林くんだった。じゃあ、チームで?一体何が起こっているのだろう。今ドイツにいる全日本チームのメンバーは若林くんから一通り聞いている。知っているメンバーも多いだけに、心配になった。そして、誰よりも若林くんが。

 パリでチームに合流した。やはり旧知の仲間が多いのは安心で、翼くん、小次郎、松山と順に顔を合わせながら、周りを見渡す。南葛の仲間、立花くんたち、三杉くん、若島津、タケシ・・・と見渡して、一人離れている若林くんに気づいた。
 小学校時代、それに今のドイツのチームでも、若林くんが独りでいる印象はない。どこにいても、自然と人に囲まれ、中心にいるイメージがある。それが、こちらに視線を向けてはきたものの、一人で立っているのは意外だった。
 でも、事前に聞いていた以上、追及する気もなかった。気持ちを切り替える必要もあった。このチームには知り合いのメンバーも多いけど、そうじゃない選手もいる。僕をこんなに歓迎してくれた友達に恥をかかせる訳にはいかなかった。できるだけ集中して、ボールを、前を、翼くんを見る。

 それでも、一日の練習を終える頃には、大体の状況が読めてきた。若林くんはチームのみんなと敵対しているらしい。僕達には何も言わないけれど、他のメンバーを罵倒している声が聞こえてきた。
「そんなチェックで、止められると思っているのか!?」
「パスまわし、遅いぞ!」
「弱いシュートだな!パスかと思ったぜ」
キーパーと連携するDFだけじゃなくて、チーム全体に浴びせられる怒声に、僕まで身が竦みそうになる。でも、違う。本心から罵倒しているのなら、あんなに辛い顔はしない。投げかけられる痛烈な言葉の前に、少し間があるのもその証拠。

「若林くん」
用品倉庫の裏で声をかけると、若林くんは一瞬ぎょっとしたように肩を震わせた。
「み、岬」
「時間良い?外でランニングしようよ」
誘いの言葉に頷くのを見て、足早に立ち去る。頷いた後一瞬目が合った時の表情はいつもの若林くんで、外なら話ができるらしいと安堵した。

 合宿所を出たところでしばらく待っていると、若林くんが来た。きょろきょろと周囲を窺う様子は珍しくて、つい笑いそうになる。
「待ったか?」
「ううん。じゃ、とりあえず走るよ」
慣れた道を走る。みんなに聞いたところでは、慣れない外をうろつく勇気がある人は限られている、とのことで、たぶん少し離れれば、誰の目にも留まらずに済む。
「こっちに公園があるんだ」
「へえ・・・」
いつもよりは少し速いペースで、息が上がる。早く話がしたいという気持ちが空回りする。若林くんは黙ってついてきて、僕の後にベンチに座った。
「岬、相変わらず足速いな」
「急いで来たからね」
息を切らしながら、答える。若林くんも胸を撫でるようにして息を落ち着かせていた。
「だって、早く話したかったし」
言下に、合宿所で話せないから、と含んで答える。若林くんは黙って僕を見、それからタオルで汗を拭った。
「久しぶり」
「ああ」
そっけない返事の若林くんをじっと見つめた。できるだけ、あっさりと尋ねることにする。
「日本のみんなはそんなに頼りない?」
「そんなことはないが・・・」
「そうだよね。心にもないこと言うのって、辛いよね」
合宿所とは違い、目を合わせてくる若林くんに、言葉を選んで投げかける。
 見ていて、チームのためだとすぐに分かった。それでも、僕にはできないことだと思う。さすがに「キャプテン」は違う、と敬服する。直接言っても、多分伝わらないアウェイ。信頼関係がないところに対話は成り立たない。それなら、手っ取り早く即席チームを強くする方法としては、完璧だと思う。自分の客観イメージをうまく生かしているし。
「・・・さすがは岬だな」
若林くんは視線を合わせたまま呟いた。
「気づかれるとは思ってたが、こんなに早いとはな」
悔しそうな口ぶりで言う割には、少しも悔しそうに聞こえない。むしろ、安心したように聞こえた。いくら若林くんが強くても、心を殺しても、仲間を攻撃するのは辛い。そうしなければならない痛みに耐えるのは、きっと辛い。
「僕で良かったら、話聞くよ。辛かったんじゃない?」
これは僕にしかできないことだ。途中から加入した分、冷静でいられるし、みんなのことももちろん若林くんのこともよく知っているから。何より、僕が聞きたいと思っている。若林くんは目を見開き、それから口元を緩めた。
「大丈夫だ。ありがとう」
険しい目の色が、穏やかなものに変わっていく。気持ちが伝わったことを悟って、僕はもう一度若林くんを見た。
 確かにこれは、若林くんにしかできない戦いだ。誰よりも強くて、誰よりもみんなを守りたいと思っている若林くん自身は、それでどれだけの傷を負ったんだろう。

 せめて、傷ついた心の痛みのかけらでも、分かち合いたいと思った。

「もう大丈夫だよ。僕が来たんだから」
笑顔の下に感情を隠すのは、僕の方が上手だ。だから、僕が君を守ってあげる。ほら、もう笑えているよ?
「頼りにしてるさ」
返ってきた笑顔はいつも通りのもので、僕の方がぎこちないくらいだった。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
Jrユース大会で、若林くんが岬くんに打ち明けていなかったら、という話です。
いつもはそれまでに想いが通じていて、秘密を共有する岬くん、を書いているので、たまには違うシチュエーションで、と思いました。
・・・必要以上に雄雄しい岬さんになってしまいました。
秘密を打ち明けない程度の仲ということで、付き合ってもいない状態なのですが、明らかに若林くんのこと好きな岬くんですよね。しかも・・・攻っぽい。まあ、ちょっと漢気あふれているということで勘弁してください。

以下、拍手お礼。
桐乃様、コメントありがとうございます。
みちんこ様のイラストが素晴らしいので、拙作のレベルまで上がった気がします。(気のせいですが)
挿絵の力って偉大です。このまま上に飾っておきたいものです。
「おやすみ」の感想もありがとうございました。
元ネタに合わせて書いたつもりがはみ出してしまう若林くんクオリティですね。
男気と色気があるなんて、嬉しいお言葉をありがとうございます。
原作の若林くん目指して、引き続き頑張りたいと思います。

拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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