※二次創作です。女性向け表現を含みますので、苦手な方はご注意下さい。 ハンブルグ国際空港で、岬と待ち合わせた。入国手続きを終えて出てくる岬を見つけるのは簡単だった。俺はいつでも岬を見つけることができる。手を振った俺に岬は走ってきた。 「久しぶり。お招きありがとう」 最後に会ったのが、9月だから、かれこれ三ヶ月。そう長い訳ではないのに長く感じるのは、会いたかったせいだ。 「本当、久しぶりだな」 岬の顔を見るのは本当に久しぶりで、気がつけばつい手を伸ばしていた。柔らかそうな雪の肌に触れたくて、俺はトランクを引く岬の手に自分の手を重ねた。 「良いよ。重くないし」 いつまでも握っているわけにもいかず、俺は手に持っていた上着を岬の肩にかぶせた。近くの店で見た時に、一目で岬に似合うと思って買ったコートだった。 「それじゃ寒いだろ。岬は寒がりだから」 岬は寒がりらしい。初めてこっちに来た夜、一緒のベッドで夜中まで話した。話しているうちに眠ってしまった岬は、寒そうに俺にくっつき、おかげでよく眠れなかった。すべすべの手が、頬が俺の胸に寄せられ、俺は小学生の頃を思い出した。
岬が南葛を離れる数日前、岬と河原でばったり会った。 「足、大丈夫?」 「足は大丈夫か?」 お互いに、ケガを気にしているのがおかしくて、二人で笑った。 「暑いし、何か飲まないか」 岬の合意を待たずに、俺は自販機にお金を入れた。 「岬は何にするんだ?」 「・・・僕は良いよ」 思った通り遠慮する岬に、俺はさっさと二つ押した。サイダーとオレンジジュースと。 「両方飲みたいから、半分ずつな」 「じゃあ、もらうよ。ありがとう」 岬は小さく笑って、オレンジジュースを受け取った。サイダーを少し飲んで、岬に缶を渡しながら、内心少しどきどきしていた。友達同士でも、そんなことをしたことはなかった。人数分おごってやるのも当たり前だったし、わざわざ人の飲んだ物を飲もうとは思わない。だが、岬はああ言わなければ受け取らなかったと思う。 「はい、交代」 それに比べると岬は少しも動じていない。誰かと、同じようにしていたに違いない。サイダーの代わりに、オレンジジュースを受け取った。缶だから、同じ場所に唇が当たる。岬に見つからないように、飲み始める前、唇を当てた。缶が太陽の光を乱反射してまぶしい中、思わず目をつぶった俺は、岬のピンク色の唇を思い描いていた。 「サイダーって、結構おいしいね」 岬が無邪気に笑う横で、俺は岬から受け取ったジュースの思わぬ甘さに驚いていた。
「ありがとう。あったかいよ」 コートを受け取った岬は、すごく嬉しそうにふんわり笑った。岬はたいてい笑顔だ。笑っていない顔の方が珍しいくらい、いつもにこにこしている。それなのに、ふとした拍子の笑顔に、俺はそれでも目を奪われる。 「俺のおさがりで悪いけど、使ってくれ」 こう言ったら、きっと岬は受け取ってくれると思った。気を遣わせたくはない。 「うん、ありがとう」 予想通り、コートはよく似合った。でもそれは言えない。 「明日は朝からクリスマスマーケット行くから、今日は家で飯食って」 ハンブルグのクリスマスマーケットは誘った口実になるくらいの規模である。照れ隠しに早口で伝えた俺に、岬は頷いてついてきた。
そして、夕食の後、岬が出してきたケーキに、俺は驚いた。岬が俺の誕生日を知っているとは思ってもみなかった。本当はその日に来て欲しかったが、無理なのは分かっている。それを。 「こんなことくらいしかできないけど」 岬の言葉に、感動した。受験生なのに無理をして来てくれただけでも、嬉しかった。それが、まさか岬に誕生日を祝ってもらえるとは思ってもみなかった。 思わず岬を抱き締めそうになり、慌てて留まった。その手を止めると、俺は岬の髪をくしゃくしゃにして、自分を岬をごまかした。それでも、柔らかい髪が指に絡みついて、俺は苦しくなる。 「そんなことない。嬉しいぜ」 「もうっ、髪の毛やめてよ」 くすぐったそうにする岬は格別に可愛くて、ずっと見ていたくなる。髪を直して、頭を撫でた。 「岬、ありがとう」 「ううん、本当に時間もなくて。他に何かできることがあったら、言って」 岬の言葉に、心が落ち着かなくなる。 「じゃあ、一つだけ。岬が次に会うまで元気でいてほしい」 嘘だ。俺が本当に欲しいのは、お前。これだけ近くにいても触れてはいけない、お前。 「それじゃ、君の誕生日プレゼントにならないよ」 岬は困ったように言う。その岬の手に、自分の手を重ねた。自分の手が熱を帯びている分、岬の手がひんやりと冷たい。 「それで、またこんな風に会いに来てくれて、今みたいに笑っていてほしい」 俺の言葉に、岬は俺を見た。岬を困らせようとは思わない。恋心を打ち明けて、あの時のように痛々しい笑顔を向けられるくらいなら、何も言わないでいる方が良いと思った。それなのに。 「何、それ」 岬は微笑みながら、もう片方の手を俺の手に重ねた。 「僕だって若林くんに会いたいから遊びに来てるのに。ねえ、若林くんは何が欲しいの?」 とうの岬が簡単に俺の理性を崩してしまう。覗き込んで、近づいた顔をとらえるのは簡単だった。
(つづく)
拍手ありがとうございます。 岬くんが回し飲み平気なのは、明和時代から、という設定です。 明和では、1本のジュースを分け合うのもチームの絆。 南葛では、絶対にそんなことはなさそうだな、と。
昨日、過去ページに色々手を入れました。すこしすっきりしました。
from past log<2008.12.10>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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