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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
天使(2)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。





 周囲を見渡して、ハンブルクだと気づいた。駅前の通りの公園に、ちょっと憧れているオープンカフェも見覚えがある。
 自慢じゃないけど、一度見た町並みは覚えている方だ。今までの人生で身についた技能を駆使して、何度か通った道を辿る。
 思った通りに、特徴のある看板の帽子屋さんに出たことで、予想が正しかったのを確信した。そのショーウィンドウを何げに覗き込んで、僕は自分の姿に気づいた。

 僕は女の子の姿になっていた。

 見間違いでないか、何度もガラスを覗き込み、さりげなく長い髪に触れる。指に絡む金髪は柔らかく、その様子もルノアールの絵から抜け出したみたいに、可愛らしく見える。道理で、さっきから視線を感じた訳だ。

 まるで天使みたいだと、間の抜けた感想が浮かんだところで、頭の中に声が響いた。
「これから2時間だけその姿にしてやるでの。これで貸し借りなしじゃ」
「どういうことですか!?」
特徴のある話し方から、声の主がどうやら、さっきのおじいさんらしいとわかる。でも、それっきり返答はなく、僕は歩き始めることにした。タイムリミットは2時間。おじいさんが何も言ってくれない以上、僕は自分でこの課題を解決しないといけない。

 何を?

 チームのグラウンドではハンブルガーSVの選手達が練習していた。フェンスに並ぶ他の女の子達をすり抜け、若林くんの姿を探すと、やっぱりゴールエリアにいるのが見えた。

「あんた、何よ」
女の子の中の一 人にかなりの剣幕で突かれた。おそらくドイツ語なんだろうけど・・・すごい!僕普通にドイツ語が聞き取れてる!
「ごめんね。ちょっと見えにくくて。当たっちゃった?」
口から出たのもドイツ語だった。自分じゃない声を自分のものとして聞く感覚は不思議で、つい嬉しくなってしまう。
「何よ、ニヤニヤして変な子!」
ここのポジション争いも大変だ。そう思いながら、少し離れたところで見る。若林くんの練習風景をいつもより穏やかな気持ちで眺める。

 いつもなら、走りたくなる。じっとしていられない気持ちになり、負けたくないと思う。試合なんか、助けに行きたくなってしまう。でも今日は、とりあえず周囲を把握する必要がある、と自分に言い聞かせて、ゆっくり見る。
 こうして改めて見ると、目の保養になるプレーだと思う。無駄なく、相手の動きを先に制している辺り、本当に若林くんらしい。そして、いつもは同じように見ているつもりでも、闘争心むきだしで見てしまっていたことに気付く。自分なら、こう攻める。こう守る。頭の中でシミュレーションしながら、仮想敵として見ることがあったり、同じチームになることを想定していたりしていた。素直にプレーを楽しむことはあまりなかったと、少しもったいなく思った。

 こうしているだけで、2時間はあっという間に過ぎてしまいそうだった。文字盤にウサギの絵柄のついた可愛い腕時計を見た。幸い練習の終わる時刻が近い。それから家に向かう時刻を予想する。それで、最近近くの店のプレッツ ェルをよく買うと聞いていたので、その方向を目指すことにした。

 一度連れて来てもらったことを思い出して歩くと、何とも言えない良い香りが漂ってきた。店の前でプレッツェルを買おうか迷っていると、こちらを見ている人に気付いた。それで、僕は今の姿が可愛らしい女性だということを思い出した。そういう間合いは何となく分かる。これはまずいな、と思ったところで、ちょうど通り掛かったのは若林くんだった。
「あの・・・」
できるだけ小声で話しかける。不思議そうに足を止めた若林くんに「変な人に絡まれそう」と告げると、若林くんは一つ頷いた。手を掴んで、店の中に誘われ、安心したけれど、不安にもなった。スマートなやりとりには少しの不自然もなかった。エスコー トし慣れているのがよく分かる。

 信じたい気持ちはあるけれど、また一歩下がる。機嫌良さそうな若林くんの笑顔に、血の気が下がるようだった。

「どうした?」
「ちょっと貧血で」
頭を押さえ、壁に手をかける。何とか姿勢を立て直して、若林くんを見上げた。
「じゃあ、ありがとう」
もう耐えられずに、僕はふらつく体で店を出た。
「大丈夫か」
店を出たところで、若林くんが追いつき、肩を支えてくれた。
「ありがとう。でも、大丈夫だから」
すぐ近くに公園があるはずだった。ベンチに座って休めば、と思っていた。若林くんはそこまで案内してくれただけでなく、濡らしたハンカチを持って来てくれた。
「ありがとう」
受け取って、頬に当てたところで視線を感じて顔 を上げた。じっと見つめてくる若林くんに気付き、収まりかけた眩暈がまた起こりそうになる。
「どうしたの?」
若林くんは目線を合わせてくると、静かに尋ねてきた。
「どこかで会ったことあるか?」

 僕でも知っているナンパの常套句、とも言うべきセリフに、僕は絶句した。でも、若林くんは真剣だった。
「そうじゃないなら、教えてくれ。俺、君が知り合いの奴に見えてしょうがない」
首を傾げる。若林くんの言葉の意味が分からなかった。何度か反芻して、ようやく今の天使のような姿が、他の誰かに見える、ということは分かった。
「私はあなたが誰か知っている。ゲンゾー・ワカバヤシ。私の一番好きな選手」
ドイツの女の子の標準的な名前なんて知らない。フランス人設定なんて今更作れない。そう思って、とりあえず事実しか言わないことにした。
「そうか・・・」

「私、あなたのことが好き。あなたは?」
あまり時間が残っていない以上、こんな手段しか思いつかない。できるだけ、女の子らしい仕草で、若林くんのすぐ側まで近づいた。
「突然何を言い出すんだ」
「だって、口説かれてるみたいだから」
言葉を重ねて重ねて、僕は罠を仕掛けた。

(つづく)

拍手ありがとうございます。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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