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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
天使(1)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。



「俺、好きな奴がいるから、ごめんな」
頭を下げる若林くんの顔を見つめながら、頬を伝う涙の感触に気づく。それなのに、嬉しくて舞い上がりそうだった。


 道にうずくまるおじいさんを見つけて駆け寄った。
 この暑さでは日頃からサッカー三昧の僕でも参りそう。ましてや、年配の方にはこの灼けるような日差しが堪えない訳がない。
「そこに公園がありますから。タオル濡らしてきますね」
あいにく今日の暑さで水筒は空っぽだ。残りも石崎くんにあげてしまったし。おじいさんを木陰のベンチに座らせて、濡らしたタオルで手を拭いてあげた。
「済まないのう。急いでおったみたいじゃのに」
「いえ。お気になさらずに」
自販機で買ったペットボト ルで、おじいさんはようやく元気を取り戻したようだった。ゆっくりだけど、落ち着いた口調に、こちらもほっとする。救急車を呼ぼうかとも思ったけれど、どうやら大丈夫そうだ。
「じゃあ、僕はこれで」
「ちょっと、学生さん」
今日は一人だけど、商店街の売り出しは逃したくない。何より、気を遣わせるのは本意ではない。お辞儀をして背を向けようとしたところで、呼び止められた。
「何ですか?」
さっきよりは元気そうな声音通り、おじいさんの表情は落ち着いて見えた。
「おかげで助かったんでのう。お礼に一つだけ願いを叶えてしんぜよう」

 ええ?何だって?
 訳が分からない。

 そう思いながらも、願いと聞いた途端、一つのことしか考えられなくなった。

 総体で忙しい夏休み、合間を縫ってドイツに行った。
 誘ってくれた若林くんも、すごく忙しそうなのに、わざわざ色々案内してくれた。
「良いの?せっかくのお休みなのに」
「だから誘ったんだろ」
僕がフランスにいた頃と同じやりとりに、僕はつい笑いそうになる。
「じゃあせいぜい接待してもらおうかな?」
冗談半分に言う僕に、若林くんも笑いながら目配せをくれる。
「もちろんだぜ。俺が岬に会いたかったんだから」
冗談とも本気ともつかない言葉に、僕は少し背の高い相手を見上げる。
 黙って立っているだけで、目が自然に吸い寄せられる。独特の雰囲気と男らしく整った風貌のせいで、近寄り難く見られる若林くんが、どんなに優しく笑うか、僕は知っている。・・・騙されても本望だと思ってしまう位に。
「それなら、嬉しいよ」
努めていつも通りに言って、笑みを返した。

 サッカーの盛んなこの国で、ハンブルガーSVのGKである若林くんがどんなに人気があるか、僕はよく知っている。一緒に歩いていても、きれいな女性に囲まれて、サインを頼まれたり、写真を頼まれたりするのが日常だ。決して子どもだけではないのが味噌。
「岬、ごめんな」
「ううん。ファンサービスもお仕事だからね」
そんなやりとりもいつものこと。

 だから、いくら好きだと言われても、いくら好きでも、本気になったら辛いのはきっと僕の方。

 だから、急に抱きしめられた時には即答できなかった。
「ちょっ・・・と、若林くん、どうしたの?」
「岬、やっぱりお前のこと好きみたいだ」

 そうな ら良いのに、と思っていた。何度か遊びに来る間に、淡い期待が胸に芽吹いた。

 それでも、即答できなかった。
「若林くん・・・」
顔を上げて、若林くんの目をまっすぐに見た。若林くんはこんなことで人をからかったりはしない。この今の瞬間、本当に真剣に僕を見つめてくれている。でも。
「悪かったな・・・」
僕の目の中の疑いの色を見たのか、若林くんは目をそらし、僕の肩から手を離した。
「岬、俺は本気だからな」
「・・・うん、分かったよ」
わざと明るく声を上げ、カップを手にソファから立ち上がった。少し歩いてから振り返ると、若林くんはこちらを見ていた。見たことのないような気弱な表情に、胸が苦しくなる。

 君を信じられない訳じゃない。でも怖い。君の変心が 、僕の執着が。
 それを打ち明けられない臆病さに舌打ちしても、何も変わることはない。

「それで、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
でも君といたいんだ。それくらいは許してくれる?僕の気持ちを知ってか知らずか、若林くんはほっとしたような顔で、今日の予定を話し始めた。

 あの日から、もう一週間。僕はまだ答えを出せずにいる。
 好きなのに信じられないなんて、どうかと思うけど・・・好きだからこそ不安になるし、好きだからこそ気持ちは迷路に入り込む。
 謎のおじいさんに出会ったのは、そんな時だった。

「一つだけ願いを叶える」
おじいさんはそう言った。僕は、心の中で、かの人の本当の心が知りたいと思っていたらしい。

 気がついた時には、 僕はドイツにいた。

(つづく)

拍手ありがとうございます。
昔のデータはほとんど消えてしまっているのですが、サルベージした中から出て来たので、加筆して再利用することにしました。
そう言えば暑い時期に書いた覚えがあります。

やっぱりいまいち体調が優れない感じです。気を付けないと。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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