※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 前の話はこちら。 両手にいっぱいの荷物を抱え、何とかベルを鳴らす。荷物が多いのは当然だ。ホテルから一足先に引き上げて来たんだから。 「若林くん、早かったんだね!」 ドアを開けて微笑む岬に、ひときわ持って来るのが大変だった花束を渡す。 「って何、これ?」 「プレゼントに決まってんだろ。岬、誕生日おめでとう」 リビングの一角を占拠した荷物に顔をしかめる岬の横顔を通りすがりに眺めながら、さっさと手を洗う。早く触れたい。 「・・・買い過ぎだよ」 岬は苦笑しながらも、俺が無造作に置いた袋をテーブルに並べた。 「選べなかったんだから、仕方ないだろ」 どれもこれも岬に贈りたいと思っていたものだ。普段なら、もらう理由がない、なんて言うから、誕生日のプレゼントは膨れ上がった。今日は誕生日プレゼントに加え、押しかけ代という立派な口実がある。 「・・・本当に、君って。でも、ありがとう」 呆れたような口ぶりなのに、岬の声は少し弾んで聞こえた。俺の願望かも知れないが。 遠征が終わるのを待って、一人別行動にした。明日の夜にはハンブルクに戻る強行スケジュールだが、やっぱり来て良かったと思った。 「それで、こっちの荷物は?」 岬はボストンバッグを指差した。トランクは先に家に送ったが、このバッグもそう小さい訳ではない。 「こっちのホテル取れてないんだ・・・泊めてくれるか?」 確かに、一度振られた。だが、断られたのは当然だ。可愛いと思ってた奴が会いに来てくれて再会した、それが嬉しくて浮かれて告白はしたものの、今よりはずっと軽い気持ちだった。 悔やまれることに、俺は振られてから、岬がどんなに大切な存在だったのかに気付いた。幸い、友達関係までは崩れなかったので、こうやって会いに来ることもできる。 「最初から、そのつもりだったくせに・・・」 手を合わせる俺を、岬はため息混じりに見上げた。咎めているはずの目許は気のせいか優しく見える。 「すまんな」 いつもなら、こうして笑っていても、決して隙を見せない。優しげに見えても、岬は意志の強い男で、惚れた弱みもあって、それ以上踏み込ませてはくれない。それが、今日は何だか違う気がした。
「・・・僕は良いんだけど・・・若林くん、どこで寝る?」 岬が言うのももっともだった。日本にいた時ほどではないが、家具の少ない岬家で、俺の寝床の確保は難しそうだ。 「じゃあ、このソファーでも良いか?」 俺の提案に、岬は黙って俺とソファーを見比べてみせた。 「・・・僕のベッド使ってよ」 岬の提案に慌てて首を振った。岬をソファーに寝かせるなんてとんでもない。 「父さんのベッドも寝られる状態じゃないし・・・」 それは何となく分かる気がした。前に、トイレと間違えて開けたアトリエときたら、まるでジャングルだった。 「じゃあ・・・」 岬が何やら言いかけて、そのまま動きを止める。何かを思い出したかのように、急に赤くなったかと思うと。 「一緒に寝る?」
頬を染めて、小さな声で控えめに口に出された岬の言葉に、思わず息を飲んだ。それなのに、喉の渇きはおさまらない。岬の恥ずかしそうな表情は可愛くて、口元が緩むのを抑えきれなくなる。 「良いのか?」 他意がなかったと言ったら、嘘になる。狭いベッドで、二人きりで。 「・・・念を押されると不安になるんだけど」 岬の提案はとんでもなく魅力的だった。一足飛びに何かしようとは思わないが、岬のベッドで隣で眠る誘惑には抗し難い。 「お前の嫌がることはしない」
二人でささやかなパーティーをした。岬はプレゼントを喜んでくれ、置き場所をどうしようか悩んでいた。岬のことだから、誕生日に祝ってくれる他の友達もいるだろうに、約束した通り二人だった。少しのワインと俺の遠征話で、楽しい時間を過ごした後、提案通り、岬のベッドに横になる。 「シーツは変えたから大丈夫」 確かに、シーツからは石鹸の香りがする。そして、それに混じって、岬の匂いがする。 「狭くない?」 俺の横に、岬が横たわる。春物らしい薄手の生地のパジャマから、手首や足首がちらりと見える。 こんなに近くにいるのは久しぶりかも知れない。あの時から、接してくれる距離が少し開いたままだった。 「岬こそ」 「!」 岬が息を飲んだのが分かった。密着した勢いで、岬を抱きしめた。 「こっちも夜は冷えるだろ。ちゃんと布団着ろって」 理由をつけて抱き込んだ俺に、岬はゆっくりと顔を向けた。 「嫌か?」 長いまつげが俺の肩に触れそうなほど、近い。少し濡れて見える瞳で、岬は俺を見つめた。 「嫌じゃないよ・・・若林くんこそ、前に言ったこと覚えてる?」 心もち身を寄せ、腕に頬の触れる近さで囁かれた途端、抑えがきかなくなった。
忘れるはずがない。一度振られたんだから、と思っても思い切れはしなかった。他の相手だったら、とっくに切ってしまっていただろうが。それでも忘れられなかった。何度も、夢を見た。
俺は向きを変えて、岬の肩をベッドに押し付けた。 「なあ、岬」 また嫌がられたら、という恐怖感がなかった訳ではない。それでも、どうしても歯止めがきかなくなった。どうしても好きで、諦め切れない。誘うように投げつけられた言葉に、燻る想いに火がついた。 見上げてくる岬の表情には、拒絶も抵抗もないように見えた。固い表情ではあったのだが。 「やっぱり好きなんだ」 上擦りそうになるのを留めると、声は自然に低くなった。押し殺していた想いを移した言葉に、岬の瞳が俺を見つめる。
「・・・ありがとう」
答えを待つ短い時間は、恐ろしく長く感じられた。岬は静かに言葉を発した。勇気がいったのか、声は微かに震えているようだった。恋に臆病な岬が勇気を出して言ってくれたかと思うと、胸がつまりそうになる。
何年もの想いを込めたキスに、岬の吐息が甘さを増す。 「は・・あっ」 夜の闇の中、潜められた声がかえってリアルだった。 「我慢するなよ」 「だって・・・」 シーツを掴んだまま恥ずかしそうに岬が答える。吐息混じりの囁きを聞くだけで、体が疼く。 「俺は我慢しないからな。何年待ったと思ってる?」 「それは君が・・・」 言いかけた唇を塞ぐ。何年も待った。相手が岬でなければ待てなかった。細い肩に手をかけて、腕にかかっているだけのパジャマを剥がす。 「全部もらうんだからな。・・・覚悟しろ」
岬の息は甘い。堕ちそうになっている表情に、こちらの方が参る。 待たせてくれた分募った想いに、胸は灼けそうだった。柔らかい唇を犯した時に、理性は焼き切れた。 「明日練習は?」 「あるに決まってる」 「休めよ」 「そんなの・・・」 「ただでさえ、ピエールとの賭けに負けたんだよ。その上休んだりしたら・・・」 「まあ、ご祝儀ってことで許してもらうしかないな」 真剣に返した俺を見つめ、岬はくすくすと笑い始めた。素直じゃないのは、よく分かった。だから、もう何を言っても俺は許さないからな。
指を絡ませてキスをした。
(おわり)
岬くん、お誕生日おめでとうございます。 あなたのお誕生日を何回お祝いしたか、もう分かりませんが、あなたの存在の大きさを実感する日です。 YO1先生には感謝してもしきれません。そして、憎んでも憎み切れない(笑)。 お誕生日更新久しぶりに頑張ったのに、祝った感ゼロです。
何年も前のお誕生日祝いに、書いたものの続きが出てきました。 話が誕生日なので、今更新しました。何だこれ。 「星の光」「つつじ」「三富士殺人事件」とこれと、あとクレスリウム王国さまに一つ送る予定です。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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