※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「岬くん、今日のご飯何かな?」 「とりあえず、さっぱりしたものが食べたいかな」 若林が部屋の外に出ると、岬と翼が話していた。これから食堂に向かうらしい。 「よお」 声をかけた若林に、翼は駆け寄り、岬は一瞥をくれると、そのまま歩き出した。顕著に無視をする訳ではなく、ただ素っ気ない態度に、相当怒っていることが伺える。今や、日向に対しても普通に話ができるようになった森崎が、青い顔をしてグラウンドの若島津に、「岬に話しかけようとしただけなのに」と涙目で訴えた程だった。
これはまずい、と若島津は思った。 何しろ、これまでの苦情とレベルがちがう。いつもなら若林にケンカを吹っかけようとする日向が暴れ…というのが黄金パターンなのだが、今回はいつにない被害者続出の事態に、若島津はため息をつく。普段から若林を恐れたり、怯えたりする後輩連中もいるが、それは理解できるし、むしろ当然だとさえ思っている。ただ、普段は面倒見が良く、フォローにまわることの多い岬の状態が困りものだった。
あいつらケンカしたのかよ?
いつもは鬱陶しいような水面下イチャイチャぶりなのが、今日は目を合わせるどころか、岬はツンとすましているし、若林はひたすらイライラしている。 「おい、岬」 指で手招きすると、岬は隣でまだ食べている翼に目配せをして、立ち上がった。いつも通りしなやかに動くと、若島津の隣に座る。 「何?」 静かだが、威圧感を与える口調で、岬が問い掛ける。好意的ではない態度に、若島津は岬が事態を理解していること、呼び出した理由まで分かっていることを悟った。だから、一旦緊張を解かせる。 「あのな、今日の紅白戦、俺とお前が同じチームらしいから。あと、松山と早田。フォーメーションはお前に任せる」 一息で言い切った若島津に、岬は拍子抜けしたのか、きょとんとした顔で首を傾げた。言われたことをゆっくり反芻し、それから若島津の机に置かれたメンバー表を見る。岬の口元がほんの少し緩んだのを見て、こいつもサッカーばかだからな、とほほえましく思いながらも若島津は釘を刺した。 「相手チームとけんかするなよ?」 「僕が悪いんじゃないもん」 「まあ、そうなんだろうけど。こう空気が悪いとやりにくい」 岬は周囲を見渡し、腕組みしている三杉、新田と森崎、沢田の若島津命名「被害者の会」を指し示されて、ため息を吐く。 「善処するよ」 時々岬が見せる子供じみたところや意地っ張りの側面を、若島津はそれほど嫌いではない。悟り澄ました岬の方が違和感があると思っている。それでも、今回の岬のため息は、若島津に何とも言えない感情をもたらした。 「岬、とりあえず俺の部屋と交換しようか」 自分らしくなく、動揺してしまったらしい、と口にしてから思った。
若島津は今回の合宿では一人部屋だった。日向が軽い怪我で不参加になった為だ。他の高校のメンバーも固定化している中で、若島津の同室の座は空いたままである。独特の雰囲気を持つ若島津を苦手とする他校の選手は多い。 「僕は良いけど・・・僕の同室、翼くんだよ?」 うっと一瞬詰まった後、若島津は仕方なさそうに頷いた。岬にしか翼の同室は務まらない、そう言われる恐怖の部屋である。 「まあ、今回だけだしな」 珍しく軽口を叩くのは、相手が岬だという気軽さだろう。 「日向さんがいない時くらい手を貸してやる」 端正な顔を、少しだけ緩めて若島津は悪戯っぽく笑う。こうしていると敬遠されることもないのに、すましているんだから、と思いながら、岬は笑い返した。
(つづく)
拍手ありがとうございます。 困ったときの若島津くん。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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