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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
諍い(1)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
続きます。

 狭い廊下を塞ぐ勢いで歩く予想外の人物に、行き当たってしまった者達は皆避けるようにして道を譲った。

 岬はモーゼさながらに障害物の消えうせた廊下を通り過ぎたところで、目当ての人物を見つけた。
「三杉くん、探したよ」
その声は普段に比べると、ゾッとする程冷たい。
「僕のせいじゃないよ?替えてくれと言って来たのは、若林くんだからね」
言い訳にもならない言い逃れに、岬は首を傾げる。確かにサプライズにしたのは問題だったかも知れないが。
「その時点で言ってくれれば良かったのに」
不幸にも通りがかってしまった沢田が、涙目で若島津の部屋に駆け込む程、その空間は寒々しい。普段の穏やかさは何処へやら、いつもは微笑みに飾られている岬の顔には愛想のかけらもない。
「それはごめん」
世にも美しいが、誠意の全く含まれない笑顔で、三杉は謝ってみせた。
「まあ、僕は良いけど」
すっと背を向け、岬は歩き出した。いつもなら、優雅に動く背が、今日は何処か傾いて見える。分かりやすい虚勢に、三杉は苦笑するしかない。

 岬からの頼み事だったので、軽く請け負った。前に大迷惑をかけたことがあり、それを許してくれた岬には借りがあるためだ。
 若林と同室になりたい、それが岬の望みだった。前回の合宿で、ほんの少し一緒に過ごす機会があって、岬はそう希望したのだった。

 合宿の相部屋は大体メンバーが決まっていた。岬の同室は翼、三杉の同室は若林。ジュニアユース大会の名残で、国内メンバーだけでの合宿の場合は、三杉と岬が同室になることが多かった。だから、三杉と話を通せば、岬の希望は叶うはずだった。

 岬の頼み通り、三杉は調整を行った。自分も翼と同室なのは嬉しいし、機嫌良く部屋割も作った。
 だが、予想もしていなかったことが起こった。若林は岬と同室と知って、喜びはしたものの、真剣に悩み始めたのである。
「岬はいつも同室嫌がっていたよな・・・」
同室に限らず、人前でイチャイチャどころか、人前で二人で話すのも恥ずかしそうにする。一緒にいるところをひとに見られたくはないらしい。

 あいつ、可愛い顔するもんな。

 表情を蕩かせて、本人が聞けば憤慨しそうなことを思う。そして、やっぱり何かの間違いに違いない、と三杉のところに向かう途中で翼に行き会い、部屋を交換するに至った。

「岬くん怒ってたよ」
部屋に入るなり、愛想のない三杉に素っ気なく告げられて、若林は絶句した。人前で岬と話せないから、とアイコンタクトを取ろうとしても目も合わせない、話しかけようとしたのもかわされた。
「今回、岬くんが同室が良いって言って来たんだよね」
こっちへ来て、すぐに恥ずかしそうに、でもどこか縋る目で、見ていたことを思い出す。それか!と気付いてしまうと口惜しい。
「翼と部屋交替してくる」
解きかけていた荷物を、手際よくバッグに戻し、若林は立ち上がった。

 隣の部屋のドアは少し開いていた。翼くんがいつも開けっ放しにするんだよ、と岬が零していた通りだった。中からは楽しそうな声が聞こえる。
「翼くん、くっついてないで整理整頓!ほら・・」
「えー、でも久しぶりに会ったんだしー」
「早く片付けてグラウンド行くんだよね?ほら、早く」
「岬くん、俺と同室はイヤ?若林くんの方が良かった?」
「そんなことないけど・・・」
岬のせいではない。翼が悪い。翼に部屋を譲ってしまった自分が悪いと分かっていても、期待して膨らんでいた気持ちは収まらなかった。若林はドアを開け、
「そうか、分かった」
と一言放った。

 若林はドアを閉めて、自室に戻った。ムシャクシャが収まらず、鞄にしまった荷物を撒き散らすように出す。
「若林くん、交渉は決裂したみたいだね」
すまし顔の三杉を睨みつけると、若林は荷物の中からウェアとシューズを取り出す。
「とりあえず、練習に行く」

 部屋を飛び出しても、若林のモヤモヤは収まらなかった。何しろこの合宿に来て、まだほとんど岬と話していない。いつもなら、岬が他の者と笑い合っている時に、そっと視線が流れてくることがある。気遣わしげに、申し訳なさそうに、または単に気になる様子で。そして、後で、と刻まれる唇。それはいかにも特別扱いであったが、それすらもまだ見ていない。
 黙々と柔軟をし、黙々と走り込む。不幸にもグラウンドで隼シュートの練習をしていた新田が、恐怖と疲労で若島津の部屋に駆け込む程苛烈を極めても、若林の心は晴れなかった。

(つづく)
拍手ありがとうございます。
おそらく、「黒鳥」の次の合宿。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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